第2回 朝の一杯 

 

20100728

 私は寝る前に本を読むのが好きで、ついつい夜ふかしをしてしまうためか、朝の目覚めはあまりよくありません。ベッドから半開きの目のままのっそりと起き出して、最初にすることといえば、ガスコンロの上にお気に入りの黄色いエスプレッソメーカーをセットすること。
 次に、牛乳を電子レンジで温めて、泡立てているうち、やがてコンロの上のエスプレッソメーカーがボコボコと音を立て始めます。カップにエスプレッソと泡立てた牛乳を入れると、カフェラテの出来上がり! これをゴクンと一口飲むと、さぁ今日も一日頑張ろうという気になってきます。

 ――さて、ここで問題です。 

Q.この朝の一杯の中に、カフェインはどのくらい含まれているでしょうか? 

  答えは約50~100 mg。
 ただし、これは私が直接測定した値ではなく、ニュージーランドの環境科学研究所が食品安全局(NZFSA)へ提出したリスクプロファイルに記載されたエスプレッソのシングルショット中のカフェイン量を参考にしたもので、1つの目安です。コーヒーの粉の量によっても変わるので、濃いめの味が好きな方はもっと多くなるでしょうし、反対に薄めが好きな方は少なくなるでしょう。 

 どうしてこんな問題を出したかと言いますと、今回は「カフェインの摂取は、ほどほどに」という話をしようと思っているからです。 

 せっかく、朝のコーヒー1杯に含まれるカフェイン量が分かったところですので、まずは他の食品のカフェイン含有量についても、いくつか紹介しておきましょう。『五訂増補日本食品標準成分表』(*)と、先述のニュージーランドのリスクプロファイル(**)を参考に示します。

玉露(浸出液)* 80 mg/1杯(1杯分 50mL)
煎茶(浸出液)* 40 mg/1杯(1杯分200 mL)
ほうじ茶(浸出液)* 40 mg/1杯(1杯分200 mL)
ウーロン茶(浸出液)* 40 mg/1杯(1杯分200 mL)
紅茶(浸出液)* 60 mg/1杯(1杯分200 mL)
コーヒー(浸出液)* 120 mg/1杯(1杯分200 mL)
インスタントコーヒー* 80 mg/1杯(1杯分2g)
コーラ** 33 mg/1缶(1杯分355 mL)
コーラ/ダイエット** 50 mg/1缶(1杯分355 mL)
チョコレート/ダーク** 59 mg/100 g
チョコレート/ミルク** 20 mg/100 g
チョコレート/ホワイト** 5 mg/100 g
チョコレートコーティングのビスケット** 1 mg/1枚(1枚分10.5 g)
ココアパウダー** 4 mg/ティースプーン1杯

  カフェインは、過剰に摂取すると、中枢神経系への刺激作用のため、めまい、不眠、不安、イライラ感、頭痛などを生じる場合があります。また胃酸分泌の亢進作用により、下痢、吐き気、嘔吐などの症状や、心臓血管系への作用により動悸、血圧上昇などを生じる場合もあります。こんなことを書くと不安になられる方もいらっしゃるかもしれませんが、前置きで「過剰に摂取すると」と書いたように、問題になるのは「摂取する量」です。

 では、どの程度の量なら大丈夫なのでしょう?
 健康な成人の摂取については、各国では、1日に400 mg程度ならイライラ感やめまいなどの症状の誘発や、心臓血管系などへの有害な影響はでないとの説が一般的に受け入れられているようです。
 カフェインの摂取で特に注意していただきたいのは、子どもと妊娠中および授乳中の女性です。

 子どもはカフェインへの感受性が強く、成人よりも影響を受けやすいと言われています。
 子どもにおけるカフェイン摂取量については、カナダ保健省では、2.5 mg/体重kg/日を指標にしたおおよその体重換算から、4~6才は1日に45 mg、7~9才は62.5 mg、10~12才は85mgを超えないようにするのが望ましいとしています。

 妊娠中および授乳中の女性は、不確実性はありますが、胎盤や授乳を介して胎児や乳幼児に影響を与える可能性が示唆されています。
 そのため、妊娠中および授乳中の女性については、カナダ保健省、欧州食品安全機関(EFSA)およびニュージーランド保健省は1日に300 mg、英国食品基準庁(FSA)は1日に200 mgを超えないようすすめています。

 数字を並べるだけではピンとこないかもしれませんので、簡単に1日分の例を挙げてみますと、健康な成人なら1日にコーヒー2杯、お茶類2杯にミルクチョコレート1枚程度、子どもならコーラ1~2本、ミルクチョコレート半分程度といったところでしょうか。
 ただし、毎日コーヒーを飲んでいたのに、いきなり“カフェインが入っている食品は全部やめます!”なんて過剰に反応する人もいるかもしれませんが、そんな必要はないでしょう。 

 このことについては、英国食品基準庁でも「1日の摂取量を制限することをすすめているのであって、すべての摂取をやめる必要はない」と、わざわざ但し書きをしています。また、ここに示した値は、有害な影響が出ないだろうと推定された量として各国で摂取量の制限をすすめているものですので、少しくらいオーバーしたからといって、必ずしも何か影響がでるというものではありません。

  近年、海外ではカフェイン入りのエネルギー飲料である“エネルギードリンク”や“エネルギーショット”の摂取について、何度も注意が喚起されていますので、ご紹介しておきます。

 海外で“エネルギードリンク”と呼ばれる製品は、見た目は日本の缶飲料に似ていて、500 ml入りの製品も売られています。
 一方、“エネルギーショット”は、エネルギードリンクよりも少ない容量(30~120 ml)で、単位容量(通常100 ml)あたりのカフェイン濃度がエネルギードリンクよりも高いのが特徴です。見た目ですと、エネルギーショットのほうが、皆さんが日本のエネルギー飲料からイメージされる製品像と近いかもしれません。 

  海外で、特に注意が必要と考えられているのは“エネルギーショット”のほうです。エネルギーショットには、カフェイン含有量が1本あたり200 mgを超える製品もあると報告されていて、1本飲むだけでもカフェインを多量に摂取してしまう可能性があるからです。
 日本でもカフェイン入りのエネルギー飲料は販売されていますし、食品以外にも、頭痛薬などカフェイン入りの医薬品もあります。コーヒーや紅茶だけでなく、これらの製品のカフェインのことも覚えておいていただくとよいと思います。 

 今日はカフェインの摂取量について書いてみました。
 朝の1杯のコーヒーは私のささやかな幸せですので、これからも毎朝楽しみたいと思っています。ですが、1日に何杯も飲まないように、またカフェイン入りの医薬品を飲んだときなどは、カフェインの過剰摂取に気をつけたいと思います。
 何度も言いますが、問題は摂取量ですので、自分が1日にカフェインをどのくらい摂取しているのか、この機会に皆さんも見直してみませんか?

 【参考】

NZFSA, Caffeine intake and effects studied, 2 June 2010
 http://www.nzfsa.govt.nz/publications/media-releases/2010/2010-06-2-caffeine-intake-and-effects-studied.htm

リスクプロファイル
 http://www.nzfsa.govt.nz/science/risk-profiles/fw10002-caffeine-in-beverages-risk-profile.pdf 

文部科学省, 五訂増補日本食品標準成分表
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm

 FSA, Food Standards Agency publishes new caffeine advice for pregnant women, Monday 3 November 2008
 http://www.food.gov.uk/news/pressreleases/2008/nov/caffeineadvice

 Health Canada, Caffeine
 http://www.hc-sc.gc.ca/hl-vs/iyh-vsv/food-aliment/caffeine-eng.php

 EFSA, Opinion of the Scientific Committee on Food on Additional Information on “energy” drinks, 5 March 2003
 http://ec.europa.eu/food/fs/sc/scf/out169_en.pdf

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