第12回 食品安全性〔用語〕クイズ―その2 

 

今回で最終回となります。最後に、食品の安全性に関する用語クイズ2で幕を閉じたいと思います。
全部で5問あります。ぜひ、挑戦してみてください。
印刷をして「答え」の欄に解答を記入してお使いいただくこともできます。

6.輸入食品の検査で、食品衛生法違反の可能性が高いと判断された食品等について、その食品の輸入業者が自ら費用を負担して行う検査を何と呼ぶでしょう。 

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7.米国では、ある飲料をアルコールに混ぜて摂取しないよう注意が喚起されています。ある飲料とは何でしょう。(ヒント:第2回コラム) 

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8.毒性試験などで使用される“試験管内”という意味のラテン語は“in vitro”、では“生体内”という意味のラテン語は何でしょう。 

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9.貝毒のうち、わが国の暫定的規制値が定められているのは麻痺性貝毒ともう1つは何でしょう。 

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10今日は何の日でしょう。(ヒント:この第12回の公開日です)

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【解答】

6.輸入食品の検査で、食品衛生法違反の可能性が高いと判断された食品等について、その食品の輸入業者が自ら費用を負担して行う検査制度を何と呼ぶでしょう。

 正解:検査命令

 過去に何度も法令違反が確認された食品や輸出国で汚染等が報告された食品など、ある事情から食品衛生法違反にあたるおそれがあると判断された食品等については、輸入業者が費用を自らの負担で検査を実施しなければならないと定められています。これを“検査命令”と言います。

 もし、検査命令の実施通知が出された場合、輸入業者が検査を実施して(多くの場合は、登録検査機関に検査を依頼します)、対象食品が食品衛生法に違反していないという結果を提出するまでは、たとえ日本の港まで運ばれてきていても、輸入許可はおりません。

 他に、輸入食品の衛生状況を把握するために定期的に実施されている検査として、“モニタリング検査”があります。この検査は国が実施しているもので、その年度の計画に従い、各地の検疫所で採取された検体について、横浜と神戸の検疫所検査センターで検査を実施しています。
 こうやって、輸入食品の安全性が監視されているのですね。

 ◆参考:輸入食品の安全を守るために(厚生労働省のホームページより)
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1.html
(*編集部より~上のアドレスをクリックすると、ご覧いただけます)
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7.米国では、ある飲料をアルコールに混ぜて摂取しないよう注意が喚起されています。ある飲料とは何でしょう。(ヒント:第2回コラム)

 正解:エネルギードリンク

  米国では、大学生などの若者の間でカフェイン入りアルコール飲料が人気となり、飲酒による事故や事件が増えて問題になったことから、アルコール飲料にカフェインを添加することの安全性について以前から議論されてきました。
 そこで、米国食品医薬品局(米国FDA)は、2010年11月、アルコール飲料にカフェインを添加するのは安全とは言えないと判断して、当該製品を販売していた4業者に対し警告を出しました。

 では、なぜ安全でないと判断されたのでしょうか。それは、カフェインがアルコールの酔いの感覚を鈍らせてしまうからです。といっても、カフェインがアルコールの肝臓での代謝を亢進したり、血中のアルコール濃度を下げたりするという意味ではありません。
 また、問題とされたカフェイン入りアルコール飲料は、1本あたりのカフェインとアルコールの濃度が高かったのです。そのため、アルコール濃度が高いにもかかわらず、カフェインが添加されているために過剰飲酒になりやすく、それにともなって、健康への影響や、飲酒運転や暴力的行為などの事件を起こしやすい可能性があると考えられたためでした。
 カフェイン入りアルコール飲料については、警告を受けた4業者が製造や販売の停止を決定していますし、米国FDAが警告を出したことで、今後、市場の販売数は少なくなっていくことでしょう。

 今回の警告は添加されたカフェインについてのみで、コーヒーリキュール、コークハイなどの天然由来のカフェインは対象になっていません。
 しかし、まだ問題は残っています。第2回のコラムで、海外ではカフェインの含有量が高い“エネルギードリンク”や“エネルギーショット” の摂取に注意が喚起されているとご紹介しましたね。
 実は、米国ではカフェイン入りアルコール飲料の人気とともに、これらの飲料品とアルコール飲料を混ぜる飲み方が流行っているようです。だから、このような飲み方も同様に過剰飲酒となる危険性があるとして、注意が喚起されているのです。

 高濃度のカフェインとアルコールという組み合わせの視点で言うと、日本でも可能性がないとは言えません。例えば、日本では受験シーズンになると、眠くならないためのドリンクとしてカフェイン含有量が高い飲料品をお店でよく見かけるようになります。これらの製品はもちろん誰でも買えます。日本の「医薬部外品」にはカフェインの含有量に制限がありますし、「医薬品」にはカフェインの含有量が明確に表示されています。
 しかし「食品」となると、販売業者が自主的にカフェインの濃度を表示している製品もあれば、濃度の表示はせずに、ただ「カフェイン」としか書かれていない製品もあります。ですので、アルコールを飲む時には、カフェインが特に多く入っていそうだなと思われる飲料品はやめておいたほうがよいでしょう。
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 8.毒性試験などで使用される“試験管内”という意味のラテン語は“in vitro”、では“生体内”という意味のラテン語は何でしょう。

 正解:in vivo (※イタリック体で表記します)

 この“in vitro”と“in vivo”は、食品の評価報告書を読むと必ず出てきます。食品関連の講演会でも耳にすることでしょう。 
 食品の分野で“in vivo”の実験と言うと、齧歯(げっし)類などの実験動物やヒトの生体内での作用を調べるという意味です。
 ある食品成分に「○○の効果がある」と報告された場合に、専門家の間では、その科学的根拠が得られた実験系が“in vivo”であるか、それとも“in vitro”であるかということがとても重要になります。
 それは、“in vitro”の実験系では、消化、吸収、代謝というような生体内での影響を考慮していない場合や、実験に使用した濃度が生体内の濃度よりもはるかに高濃度に設定されている場合があるからです。ですから、“in vitro”の実験系で何らかの効果があると言っても、必ずしも生体内で全く同じ効果があらわれるとは限らないというわけです。 

 “in vivo”に似たような用語で“ex vivo”というのもあります。これは“生体外”という意味のラテン語で、摘出臓器や生体由来の培養細胞などを使用する場合などに使用されています。しかし、分子生物学の分野では、細胞レベルの実験を“in vivo”と呼ぶこともあるようなので混乱しないようにしたいですね。
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 9.貝毒のうち、わが国の暫定的規制値が定められているのは麻痺性貝毒ともう1つは何でしょう。 

 正解:下痢性貝毒

  貝類(可食部)の暫定的規制値として、わが国では、麻痺性貝毒は4 MU/g(Mouse Unit:マウスユニット)、下痢性貝毒は0.05 MU/gと定められています。
 麻痺性貝毒の有毒成分はサキシトキシン群など、下痢性貝毒はオカダ酸群やその同族体(ディノフィシストキシン群)、イエッソトキシン、ペクテノトキシンなどです。この暫定的規制値を超えた貝類は販売できません。
 また、採捕場がある都道府県の自治体ではモニタリングを実施しており、暫定的規制値を超えた貝類が確認された場合には、採捕および出荷の自主規制などの措置がとられています。

 MUという単位は聞き慣れないかもしれませんが、これは貝毒の試験法にマウスを用いているためで、マウスに貝毒を腹腔内投与して、そのマウスが死亡するまでの時間をもとに貝毒の毒量を求めているからです(マウスバイオアッセイ)。
 1 MUは、体重20 gのマウスに貝毒を腹腔内投与して、麻痺性貝毒では15分間、下痢性貝毒では24時間で死に至らしめる毒量と決められています。

 わが国で規制されているのは麻痺性貝毒と下痢性貝毒の2種類のみですが、貝毒には他に記憶喪失性(ドウモイ酸)や神経毒性(ブレベトキシン)、食中毒症状が下痢性に似ているアザスピロ酸などがあって、コーデックス食品規格*(第3回参照)では生鮮二枚貝(live bivalve molluscs)の可食部について、次のような最大基準値が設定されています。国によって規制対象にしている貝毒はさまざまですが、ほぼコーデックス食品規格に準じた値を採用しています。

サキシトキシン群(STX)  ≤0.8 mg サキシトキシン2塩酸塩当量/kg
オカダ酸群(OA)  ≤0.16 mgオカダ酸当量/kg
ドウモイ酸群(DA)  ≤20 mgドウモイ酸/kg
ブレベトキシン群(BTX) ≤200 MU又は相当量
アザスピロ酸群(AZP)  ≤0.16 mg /kg

 ここで、「あれ?」と何かお気づきになられた方がいらっしゃるかもしれませんね。
 ブレベトキシン以外は、単位にMUではなくてmg/kgを使用しているのです。
 わが国では、マウスバイオアッセイを公定試験法としているため、単位にはMUを使用しています。一方、コーデックス食品規格、米国やEUの貝毒の基準値はいずれも重量単位で示されています。

 食品安全の分野において、貝毒に関して現在、最もホットな議論は、試験法をどうするかということです。
 これまでは、マウスバイオアッセイが貝毒の主要な試験法でした。
 しかしながら、特異性の低さや結果のばらつきが大きいこと、動物愛護のために(倫理上の問題)実験動物の使用は他に代替法がない場合に限り最小限に留める必要があることなどを理由に、現在多くの国々が、貝毒の試験法としてマウスバイオアッセイにかわるLC-MS法やELISA法などの代替試験法についての検討を進めています。 

 ただし、機器分析にも問題はあります。
 例えば、麻痺性貝毒と一口にいっても、かなり多くの類似化合物(アナログ)が含まれています。そのため、機器分析で検出されたシグナルがどの類似化合物のものなのか特定しなければならず、すべての類似化合物の標準品が必要になりますが、この標準品の入手というのが非常に困難なのです。
 また、先述のコーデックス食品規格にあるように、多くの類似化合物が存在する場合には、その毒量を代表的な有毒成分の毒量に換算して示さなければならないのですが、その換算係数をいくつにするか、複数の類似化合物が存在する場合に相互作用はないのか、複数の種類が異なる貝毒が共存した場合はどうなるのかなど、いろいろと未解決の問題がたくさんあるのです。

 通常なら、各々のコーデックス食品規格では特定の試験法が指定されています。そのため、多くの国は、基準値とともに指定された試験法も参考にします。
 しかしながら、この二枚貝のコーデックス食品規格では、サキシトキシンの測定法(液体クロマトグラフィー蛍光検出法:LC-FL)しか指定されていません。つまり、サキシトキシン以外の貝毒には、国際的な指標となる試験法が現在のところはないのです。

  マウスバイオアッセイであれば、他の貝毒についても各国でよく利用される試験法がありますが、先述のように代替試験法を求める動きがありますので、コーデックスとしてもマウスバイオアッセイ以外の試験法にしたいという意向があるようです。試験法の指定については、現在もコーデックス魚類・水産製品部会のワーキンググループで議論が継続されています。いつになるか分かりませんが、サキシトキシン以外の貝毒についても試験法が指定される日が来るものと思われます。
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10.今日は何の日でしょう。(ヒント:この第12回の公開日です)

 正解:クリスマスイブ

 正解を書くまでもなかったですね。皆さんはどんなクリスマスイブをお過ごしになるのでしょうか。きっと今夜はごちそうが待っていることでしょう。特別な日には、脂っこい食べ物や、甘い食べ物、お酒、他にも普段なら食べ過ぎないように我慢している物を好きなように食べるというのも、一つの楽しみですよね。でも、特別な日が過ぎたら、また食事のバランスを見直すことが大切です。そんな皆さんには「食事バランスガイド」を! 

 「食事バランスガイド」は、平成17年(2005年)に厚生労働省と農林水産省が、健康な人を対象に、バランスのよい食事と生活習慣病予防を中心とした健康づくりのためのツールとして作成したガイドです。1日に何をどれだけ食べればよいか目安が分かりやすく示してあり、ぬり絵で自分の食生活をチェックできる仕組みになっています。 

◆「食事バランスガイド」について(農林水産省ホームページより)http://www.maff.go.jp/j/balance_guide/index.html#toha
(*編集部から~上のアドレスをクリックしてください。ご覧いただけます)

 ご紹介したホームページを見ていただくとおわかりいただけると思いますが、全体が「コマ」の形をしていますね。このコマは、1日の食事内容をもとに主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の5つに区分されていて、中心の軸はお茶や水、ひもは菓子・嗜好飲料を示しています。バランスよく食事をとるとコマが回転して倒れなくなりますが、逆にバランスが悪くなるとコマの形が崩れて倒れてしまいます。
 クリスマス、忘年会、お正月と次々と食事バランスが崩れそうな行事が続く季節だからこそ、自分の食生活がどんな状態かチェックしてみるといいかもしれませんね。

 この「食事バランスガイド」は自分だけでなく、みんなで学べるような教材も紹介されています。教材を紹介しているページでは、「子ども向け」、「親子向け」、「若年者向け」、「中高年向け」、「シニア世代向け」と、各世代の生活にあった「食事バランスガイド」の解説冊子もインターネット上からダウンロードできるようになっています。
 例えば「中高年向け」だったら、メタボ体型のオジサンをキャラクターに食事バランスの見直しをすすめていて、楽しく取り組めるように工夫されています。
 また「地域版食事バランスガイド」は、各地域の食事事情を取り入れたガイドです。地域によって日頃の食事内容は違いますよね。この「地域版食事バランスガイド」を見ると、各地域の食文化も一緒に分かるので比べてみるのも楽しいと思います。

◆「食事バランスガイド」活用教材(農林水産省ホームページより)
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/jissen-kyouzai.html

◆地域版食事バランスガイド(農林水産省ホームページより)
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/syokuikujissenn-tiikibg.html
(*編集部から~上のアドレスを各々クリックしてください。ご覧いただけます)

あとがきにかえて
 
このコラムも今回で最終回です。執筆のお声をかけて下さったのが女子栄養大学出版部ということで栄養関係の読者の方が多いこと、そして12月は次々とごちそうが並ぶ機会が多いので、「食事バランスガイド」を最後のテーマに選んでみました。
 これまで、食品科学情報、特に安全情報について色々と思いつくままに書きましたが、読者の皆さんにとって、食品への「安心」や「正しい認識」の一助となれば幸いです。全12回、お付き合いいただき有り難うございました。また、色々と貴重なアドバイスを下さった女子栄養大学出版部の担当者の方へ感謝申し上げます。

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