第4回 「研究所」とは どんなところ? 

 

 今年の夏も、私が勤めている「国立医薬品食品衛生研究所」で一般公開が行われました。ふだんなら当研究所に関係のある人しか敷地内に足を踏み入れることができないのですが、この日だけは一般公開ということで、受付をすれば誰でも見学することができます。

 この日は、朝方はザーザー降りの雨模様だったのに、午後からは晴れて、高い湿度とともにうだるような暑さ。そんな天気にもかかわらず、多くの方が見学に来てくださいました。とても有り難いことです。

一般公開に来てくださった皆さんには、当研究所がどんなところなのか、少しはお伝えできたのではないかと思うのですが、これをお読みの皆さんはいかがでしょうか。どのようなイメージをもっていらっしゃいますか?

“研究所 = 何をしているかよくわからないところ”

 残念ながら、これが研究所というものに対する一般的なイメージかもしれません。
 でも、当研究所は、実は皆さんの健康や生活と密接な関わりをもつ研究所なのです。
 私が勤める研究所がどんなところか皆さんに広く知っていただきたいので、簡単にご紹介してみたいと思います。

 当研究所の始まりは、明治7年(1874年)。
 まったく関係はないのですが、この原稿を書いているときに、昨今の坂本龍馬ブームからふと思いました。坂本龍馬が京都の近江屋で暗殺されたのが慶応3年(1867年)のこと。その間、たったの7年しか経っていないのですね。思えば、たいそう昔の話です。

 会議や講演会に使用される当研究所の講堂の壁には、年表とともに歴代所長の写真が横一列に飾ってあります。すべて白黒写真なのですが、最も新しい写真から古い方へ順々に目を移していくと、全体的に茶色っぽく古めかしくなり、現代のスーツ姿が記章をつけた詰め襟姿へと変化して、その姿を拝見するだけでも歴史の重みが感じられます。

 現在は東京・世田谷区上用賀にありますが、当初は医薬品の官営試験機関「東京司薬場」として日本橋馬喰町にあり、いくつかの名称変更や移転を経て、現在に至っています。昭和24年から平成9年までは国立衛生試験所(通称:国立衛試または衛試)という名称でしたので、そちらのほうが、少しは馴染みのある方がいらっしゃるかもしれません。

 次に、研究所の役割についてお話ししましょう。
 もともと、当研究所の専門は医薬品でした。現在は、医薬品のほか、食品、家庭用品、医療機器、環境に関する分野など、皆さんにとって身近なことを広くテーマにしています。
これらの品質、有効性及び安全性を評価するのを当研究所の役割としていますが、その研究結果は、厚生行政の科学的な面での支援につながっています。

 しかし、“厚生行政の科学的な面での支援”と言っただけでは、ちょっと分かりにくいかもしれませんね。

 例えば、食品安全の分野では、世界貿易機関(WTO)の「衛生と植物防疫のための措置に関する協定(SPS協定)」(第3回「メラミン」参照)というものがあります。この協定では、加盟国が独自の基準を設定することを認めていますが、同時に、規制は科学にもとづいていなければならず、人の生命または健康を保護するために必要な範囲でのみ適用し、加盟国間で不必要な貿易障壁をなくさなければならないことが明確にされています。

 それなのに、日本の厚生行政として、ある問題について対策案を考えなければならない、場合によっては規制もしなければならないといったときに、担当者の頭の中に浮かぶアイデアだけで勝手に決断されたら国民にとっては大迷惑になることもありますし、もしそうなったら大変なことになります。国際会議で日本としての立場や考えを伝えるときや、他国と協力し合う際に、何のデータもなくただアイデアだけで対応したら、相手にしてもらえませんし、国際問題にもなりかねません。

 そうならないように――、
 科学的な研究や評価で得られた根拠にもとづいて――、
 厚生行政として適確で妥当な判断ができるように――、
 そして国際協力や対応もできるように――、
 研究者として厚生行政に重要だと思われる関連分野の研究に取り組んで、結果を提示することで支援しようとしているのです。
 研究結果を提示するだけでなく、厚生労働省などの行政の審議会や食品安全委員会、国際会議などへ専門家として直接参加されている研究者もいます。

 もちろん、行政支援のみが研究目的でない場合もありますし、基礎研究に取り組んでいる部署もあります。
 テーマも行政側から依頼されるだけでなく、自主的に検討する場合もあります。
いずれにしても、皆さんの健康や生活に役立つような研究という意味では目的は同じですし、研究者としての宿命で、質の高い論文をいくつ発表したか、どれだけ社会に貢献できる研究発表をしたかで主に評価されます。

 では、具体的にはどんな研究を行っているのか、ご紹介しましょう。
 研究内容は、大きく次の5つの分野に分けられています。

(1)医薬品・医療機器分野
(2)食品分野
(3)生活関連分野
(4)生物系分野
(5)安全情報関連分野

 これらのうち、食品が関係する分野は、主に(2)、(4)、(5)です。
 これらの3つの分野を当研究所のホームページから簡単に引用してご紹介しますと、次のようになります。

(2)食品分野→ 食品中の残留農薬や動物用医薬品、食品添加物等の分析法に関する研究、容器包装や食品添加物等の安全性に関する研究を化学的なアプローチで行っています。食中毒菌やウイルス、カビ毒などの微生物関連の研究も行っています。

(4)生物系分野→ 食品、食品添加物、農薬等の安全性について、実験動物や組織、細胞等を用いた生物学的なアプローチで試験を行っています。また、安全性の試験方法や評価方法の検討もしています。

(5)安全情報関連分野→ 食品の安全性に関わる国内外の情報を収集し、分析する研究を行っています。食品添加物、農薬に関するデーターベースも作成しています。私はこの分野の所属なのですが、第1回でご紹介した「食品安全情報」の発行も業務の1つです。

 当研究所のホームページには、より詳細な内容が記載されております。こちらをご覧いただくと、より深くご理解いただけると思います。ぜひ一度クリックしてみてください。
トップページから、≪研究部≫というリンク文字をクリックしていただくと、先述の5つの研究分野と各研究部が紹介されていますので、それぞれの特色がよく分かると思います。

◆国立医薬品食品衛生研究所ホームページ
http://www.nihs.go.jp/index-j.html

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