第6回 情報源はどこ? 

 

 今回は、信頼できる“情報源”とはいったい何か、についてお話ししましょう。

 まずは、皆さんにお尋ねしたいことがあります。 

 皆さんが、何か食品の安全性にまつわる話を見聞きしたときに、その話がもともとはどこから出た話なのか、気にされたことはありますか? 

 どうしてこんなことをお尋ねするのかと言いますと、実は、私が食品関連のニュースを見聞きした際に、真っ先に気にするのが話の出どころなのです。皆さんも、何かうわさ話を聞いたとき、「誰がそんなことを言い出したの?」と疑問に思いませんか。もし“言い出しっぺ”がわからなかったら、「なんだ、ただのうわさ話ね」と思うでしょう。
 たとえ“言い出しっぺ”が判明したとしても、それが誠実で信頼できる人なら真実味のある話と思うかもしれませんが、逆にあまり信頼できない人なら疑ってしまうでしょう。それと、同じことなのです。

 では、安全性の情報の研究に携わる私が信頼している“言い出しっぺ”、つまり“情報源”とはどこでしょう。 

 まずは、科学的な根拠をもとに公正な判断をしているという観点から、世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際がん研究機関(IARC)など、食品が関連する個々の国際機関。また、コーデックス委員会(*)、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)、FAO/WHO合同残留農薬専門会議(JMPR)などの国際的な専門委員会などです。(*編集部注~本コラムの第3回を参照ください)

 各国政府機関の公式発表も、同様に信頼性が高いと考えています。わが国なら、食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省、消費者庁などの公式発表でしょう。

 また、専門的な学術雑誌に掲載された論文も比較的信頼できます。ただし、学術論文も信頼性の高低はさまざまです。査読論文(ピアレビュー論文)と言って、その筋の専門家による公正な審査で、妥当な研究水準をクリアしていると判断された学術論文が最も信頼性が高いと言えます。

 一方、学会発表や専門家と呼ばれる人のコメントや書物の記述はどうでしょう。
 これは、場合にもよりますが、学術論文よりも信頼性は低いと考えられています。理由としては、学会発表はまだ研究途中の可能性がありますし、いわゆる専門家のコメントや書物には査読のようなチェックがないため、憶測や偏った見方、自己主張の可能性があるからです。

  では、NPOや消費者団体の発言はどうでしょう。
 おおかたは、自らの主張に添った情報のみを取り上げて、提供している情報が偏っている可能性、主観的な解釈に沿って内容を誇張している可能性を否定できません。 

 さらに、マスメディアの情報はどうでしょう。
 マスメディアは速報という面では非常に優れていると思います。その点、さすがです。私も、世の中で発生した問題をマスメディアの情報から知ることがよくあります。
 でも、ここで注意しなければいけないのは、マスメディアはとかく速報性を求めるがゆえに、情報の分析や説明が不十分になる可能性があります。また、視聴者や読者の興味を引くために話を必要以上に誇張したり、繰り返し伝えることで先入観を与えたり、余計な不安を煽る可能性も否めません。

 以上のように、私が最も信頼している情報源とは、国際機関や各国政府機関による公式発表と査読論文です。隔週で公表している当研究所の「食品安全情報」でも、信頼できる情報であることを最重要視しておりますので、これらの情報源の記事のみを採用することにしています。

 一方、皆さんが信頼している“情報源”とはどこなのでしょう。
 食品安全委員会の報告書に興味深いデータがありました。

「リスク認知の形成要因等に関する調査」
http://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20090020001
(*編集部から~上のアドレスをクリックしてください。ご覧いただけます)

 これは、食品安全委員会が、今後のリスクコミュニケーションをより効果的に行うための参考資料として、食品に関する消費者のリスク認知に関して調査したものです。
 その調査の1つに、全国の20歳以上の男女2,000人を対象としたインターネットによるアンケート調査があります。調査実施期間は2008年10月29日~10月31日です。

 私が興味を引かれたのは、そのアンケート調査で“食品の安全性について信頼できる情報源”を尋ねた結果です。2,000人の消費者は、なんと答えたでしょう。複数回答の結果です。

 ≪ニュース・報道番組 72.8%、新聞55.6%、ドキュメンタリー番組34.2%、ワイドショー・情報番組29.4%≫と、上位にはマスメディア情報がランクインしていました。
 では、この調査を実施した食品安全委員会はと言いますと、上位から7番目の13.3%でした。一方、大学・研究機関・研究者が9番目の13.1%、NPO・消費者団体が10番目の10.2%、農林水産省と厚生労働省は13、14番目で同じ8.0%でした。

 マスメディアの情報が上位にランクインするのは、速報性や消費者への影響力を考えると、そういう結果になることもあるかなという気はしましたが、食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省の数値には、驚きとともに衝撃を受けました。

 この調査は2,000人のインターネットを使う人に限定されていますが、皆さんの中にも同じようなご意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。

 皆さんにここでお願いがあります。もう少し、政府機関の公式発表を信頼していただけないでしょうか。政府機関のホームページを見ても、専門用語ばかりで分かりにくい、難しいといったご意見もあるかもしれませんが、公正である、科学的根拠にもとづいていることから、政府機関の公式発表が最も信頼性が高いのは確かです。

 しかし、先述のように信頼性が高い情報源はこうですよ、と私がお話ししても、自分が見聞きした話の内容からその情報源はどこかなんて、普段から慣れていないと簡単には調べられないですよね。

 そこで、皆さんにおすすめしたいことが、最初にお尋ねした質問につながってくるのです。

 皆さんが何か食品の安全性にまつわる話を見聞きしたときには、ぜひ、その話の中で根拠となった情報源(引用元)が明確に示されているかを気にしてみて下さい。皆さんへの影響が大きいマスメディアの情報も、もともとの情報源(取材先、ネタ元)があるはずです。
 もし、情報源が示されていなければ、“言い出しっぺ”がわからないうわさ話と一緒です。情報源が明確に示されていないときや、示されていても先述の信頼できる情報源でないときは、その話をそっくりそのまま信用せずに、1つの参考程度に留めることをおすすめします。

 もっとも、編集部の人にうかがったら、政治や社会面をにぎわすニュースは情報源を明かさないのが記者の鉄則だそうですから、報道するジャンルによっては、やむを得ないこともあるのかもしれません。ただ、食品の安全性など科学のカテゴリーに入るニュースは情報源、つまり、根拠を示さない限り、信憑性は薄いと言ってよいでしょう。

 また、何か疑問に思ったときや、テレビや新聞などで見聞きしたときには、政府機関の発表をチェックしてみることをおすすめします。
 そして、食品関連の問題が生じたときの緊急時対応としての公式発表だけでなく、国民の皆さんの日常生活で広く知っておいていただきたい情報も政府機関のそれぞれのホームページなどに掲載されています。

 こんな偉そうなことを言っている私も、情報を提供する側の人間です。
 前回お話ししたように、科学的根拠にもとづいた情報を見つけ出して、包括的にまとめて、何らかのかたちで公表する、そして、まとめた情報が皆さんの生活にどれだけ還元されるかが情報研究の“勝負どころ”です。

 そして、情報の提供者としては、わかりやすくお伝えするというのも、これまた“勝負どころ”となるでしょうね。

Ringbinder theme by Themocracy