第11回 食品安全性〔用語〕クイズ―その1 

 

最後の2回は、食品の安全性に関する用語クイズをしてみましょう。全部で5問あります。ぜひ、挑戦してみてください。
印刷をして「答え」の欄に解答を記入してお使いいただくこともできます。 

【問題】
1.厚生労働省の食中毒統計資料において、平成21年度の食中毒で最も事件数(届出件数)が多かった原因物質(小分類)は何だったでしょう。(大分類では細菌、ウイルス、化学物質、自然毒などに分けられています)

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2.省令で表示が義務づけられている食物アレルギー物質を含む原材料(7品目)は何でしょう。

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3.WHO(世界保健機関)など国連機関で使用される公用語には、英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語に加えてもう1カ国語あります。それは何語でしょう。

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4.PTWIは暫定耐容週間摂取量、ではPTMIは何でしょう。

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5.“IARCグループ1”とは、どんな意味でしょう。

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【解答】

1.厚生労働省の食中毒統計資料において、平成21年度の食中毒で最も事件数(届出件数)が多かった原因物質(小分類)は何だったでしょう。(大分類では細菌、ウイルス、化学物質、自然毒などに分けられています)

正解:カンピロバクター・ジェジュニ/コリ

 平成21年度の食中毒統計資料によると、細菌のカンピロバクター・ジェジュニ/コリによる食中毒の事件数(届出件数)が最も多く、345件でした。次いで、多い順にノロウイルス(ウイルス)288件、サルモネラ属菌(細菌)67件、植物性自然毒(自然毒)53件、ぶどう球菌(細菌)41件、動物性自然毒(自然毒)39件でした。一方、化学物質は13件でした。

 上記の事件数(届出件数)からお分かりいただけるように、細菌とウイルスによる食中毒が圧倒的に多いですね。しかし、細菌やウイルスによる食中毒に携わる研究者の間では、実際の食中毒件数は、届出のあった件数よりもはるかに多いと考えられています。
 なぜなら、厚生労働省の食中毒統計資料のデータは、医師から保健所へ届出があって、保健所による調査の結果、食中毒であると認められた事例のみが集計されているからです。たしかに、症状が軽い場合には病院に行かないことも多いですよね。腹痛、下痢、嘔吐といった症状のために病院に行ったとしても、食事が原因だったと診断されない場合もあるでしょう。また、食中毒の原因となる細菌やウイルスの種類によっては、潜伏期間が長いために特定しにくい可能性もあります。そのために、食中毒統計資料に掲載される細菌やウイルスによる食中毒の件数は、氷山の一角だと考えられているのです。

 皆さんの中には、食品中の残留農薬や食品添加物を不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これらの食中毒は報告されていません。(化学物質の13件のうち12件がヒスタミン食中毒です)
 食中毒のリスク管理としては、化学物質よりも、細菌やウイルスへの対策のほうが重要なのです。

◆参考:食中毒統計資料(厚生労働省ホームページより)
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html
(*編集部より~上のアドレスをクリックしてください。ご覧いただけます)
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2.省令で表示が義務づけられている食物アレルギー物質を含む原材料(7品目)は何でしょう。

正解:卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに

 以前は、表示が義務づけられている原材料は5品目でしたが、平成20年6月3日より、えびかにの2品目が追加されました。
 他に、表示が奨励されている食材があります。あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの18品目です。

◆参考:アレルギー物質を含む食品に関する表示Q&A [PDF](消費者庁ホームページより)http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin12.pdf
(*編集部より~上のアドレスをクリックしてください。ご覧いただけます)
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3.WHO(世界保健機関)など国連機関で使用される公用語には、英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語に加えてもう1カ国語あります。それは何語でしょう。

正解:アラビア語

 国連機関の公用語は、英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語及びアラビア語の6カ国語ですので、WHO及びFAO(国際連合食糧農業機関)のホームページは、いずれの言語でも閲覧可能です。ホームページが七変化ならぬ六変化するというわけですね。

◆参考:WHO(世界保健機関)http://www.who.int/en/
    FAO(国際連合食糧農業機関)http://www.fao.org/
これらのトップページ画面の上部に次のような各言語ページへのリンクがあります。
どうでしょう、試しに一度クリックしてみませんか?
 العربية (アラビア語)
 中文 (中国語)
 english (英語)
 français (フランス語)
 Русский (ロシア語)
 Español (スペイン語)
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4.PTWIは暫定耐容週間摂取量、ではPTMIは何でしょう。

正解:暫定耐容月間摂取量

 PTWIはProvisional Tolerable Weekly Intakeの略で、WeeklyがDailyになれば暫定耐容一日摂取量(PTDI)、Monthlyになれば暫定耐容月間摂取量(PTMI)となります。
 PTWIとは、ある汚染物質について一生涯摂取し続けても有害な影響が現れないと推定される1週間あたりの最大摂取量のことです。それがDailyならば1日あたり、Monthlyなら1カ月あたりの最大摂取量ということです。

 ご参考までに、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)では、カドミウムの摂取について、これまで暫定耐容週間摂取量として7μg/kg 体重が設定されていました。
 しかし、2010年6月のJECFA第73回会合において、カドミウムの全身の生物学的半減期(摂取したカドミウムの体内濃度が半減するまでの時間)が長いことから、週単位ではなく、少なくとも1カ月間というスパンで耐容摂取量を設定するほうが妥当であるとして、PTWIが取り下げられ、新たに暫定耐容月間摂取量(PTMI)25 μg/kg 体重が設定されました。
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5.“IARCグループ1”とは、どんな意味でしょう。

 正解:国際がん研究機関における発がんの評価がグループ1という意味

 国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)は、WHOの一機関として、その名の通り、がん研究の国際協力の促進に取り組んでいる国際機関です。

 IARCは、がんに関する国際的な状況や予防戦略などの検討に加えて、化学物質等の発がん性の根拠を評価し、ヒトでの発がん性の証拠(エビデンス)に従ってグループ1~4に分類しています。IARCの分類では、経口暴露による発がんだけでなく、吸入や経皮などの暴露による発がんも含まれています。

・グループ1:ヒトに対して発がん性がある
・グループ2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある
・グループ2B:ヒトに対して発がん性の可能性がある
・グループ3:ヒトに対する発がん性について分類できない
・グループ4:ヒトに対しておそらく発がん性はない

◆参考:IARCホームページ
http://www.iarc.fr/
↓このページからIARCのグループ分けが確認できます。
http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/index.php
(*編集部より~上のアドレスをそれぞれクリックしてください。ご覧いただけます)

 経口摂取では、代表的なものとして次のような例があります。
・アフラトキシン、アルコール飲料中のエタノール、たばこなど ⇒グループ1
・アクリルアミド、クレオソートなど ⇒グループ2A
・コーヒー、フラン、オクラトキシンAなど ⇒グループ2B
・カフェイン、パツリンなど ⇒グループ3

 IARCによる発がんのグループ分けがあるということを、お分かりいただけたでしょうか。
 実は、このグループ分けを理解しようとするとき、皆さんにとって大きな落とし穴があるのです。それは、IARCのグループ分けは、ヒトに対する発がん性の証拠(エビデンス)をグループ分けしたもので、暴露量が考慮されていないということです。

 以前、“リスク”の概念についてお話ししましたが、食品の安全性を評価するときは、必ず摂取量(経口由来のハザード暴露量)を考慮する必要があります。たとえIARCグループ1だとしても、暴露量によっては、発がんリスクは小さくもなり、大きくもなります。
 つまり、IARCのグループを見ると、あたかも発がんのランキングがあるかのように感じてしまうかもしれませんが、暴露量を考慮していないので、IARCのグループ分けだけでは発がんリスクの大きさを特定できない、という落とし穴があるのです。

 例えば、アルコール飲料中のエタノールはIARCグループ1ですね。でも、時々たしなむ程度の人と大酒飲みの人の発がんリスクが同じではないということを、皆さんにもご想像いただけますよね。

 これは参考情報ですが、IARC以外の機関でも発がん性の評価グループが公表されています。例えば、米国環境保護庁(EPA)、EU、米国毒性プログラム(NTP)などです。しかし、信頼性が高く、最もよく引用されるのはIARCの分類です。
 カナダ保健省のページに各々のグループ分けがまとめられているので、リンクを載せておきます。
◆Hazard-Specific Issues – Substances Assessed For Carcinogenicity
http://www.hc-sc.gc.ca/ewh-semt/occup-travail/whmis-simdut/carcinogenesis-carcinogenese-eng.php
(*編集部より~上のアドレスをクリックすると、ご覧いただけます。英文です)

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