第7回 食品安全性〔○×〕クイズ-その1 

 

これから2回に分けて、食品の安全性に関する○×クイズをしてみましょう。

問題は5問です。ちょっと難しいかもしれませんが、ぜひ、挑戦してみてください。
このページを印刷して「答え」の欄に○か×を記入して使うこともできます。

【問題】
1.リスク評価、リスク分析、リスクコミュニケーションの3要素を合わせてリスク管理と呼ぶ。
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2.日本の食品安全委員会とEUの欧州食品安全機関(EFSA)はリスク評価機関である。

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3.ハザードとリスクは同じ意味である。

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4.NOAELは、最小毒性量のことである。

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5.フードチェーンとは、食品が生産場から販売店へ運ばれる流通段階のことである。

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【解答】

1.リスク評価、リスク分析、リスクコミュニケーションの3要素を合わせてリスク管理と呼ぶ。
 正解:×

 リスク管理、リスク評価、リスクコミュニケーションの3要素で構成される意志決定の過程のことをリスク分析と呼びます。

 リスク分析は、科学的根拠にもとづいて食品の安全性を確保(食品の喫食による健康リスクを効果的に低減または許容範囲まで制御する)するための手法として、コーデックス委員会の呼びかけにより多くの国々が利用しています。もちろん、現在の日本で食品の安全性を確保する上においても、リスク分析が基本になっています。 

 まず、リスク管理とは、何が食品安全上の問題なのかを検討し、その問題による健康リスクの低減または許容範囲まで制御することを目的とした措置(リスク管理措置)を特定し、実施することです。リスク管理措置を特定する際、リスク評価が必要な場合にはリスク評価機関に諮問します。また、リスク管理措置の実施後、その措置が適切であったかどうかについて、モニタリングとレビューを行うのもリスク管理の一環です。わが国では厚生労働省や農林水産省などが、国際的にはコーデックス委員会(各部会)がリスク管理機関です。

 次に、リスク評価とは、言葉の通りリスクを評価するもので、ハザード(危害因子)の摂取(暴露)により、どのくらいの確率で、どの程度の有害な影響が出るのかを科学的に評価することです。わが国では食品安全委員会が、国際的にはJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)、JMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)、JEMRA(FAO/WHO合同微生物学的リスク評価専門家会議)がリスク評価機関です。

 そして、リスクコミュニケーションとは、リスク分析の過程において、利害関係者が双方向で意見や情報等を出し合い、互いに認識、理解することです。リスクコミュニケーションにおいて出された情報等はリスク管理措置へ反映されることが重要です。この利害関係者には、リスク分析に直接携わる人達だけでなく、消費者、業界、研究者なども含まれます。

◆参考:コーデックス委員会の枠組みの中で適用されるリスク分析の作業原則
(農林水産省のホームページより)
コーデックス委員会におけるリスク分析の作業原則や各要素に求められていることが記載されています。国際的な食品規格の作成を目的としているため、国家間の立場の考慮などにも言及していますが、これを読むとリスク分析の概念が理解しやすくなると思います。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/codex/standard_list/pdf/manual.pdf
(*編集部より~上のアドレスをクリックしてください。ご覧いただけます)

◆参考:食品安全リスク分析(食品安全担当者のためのガイド) (FAO食品・栄養シリーズ)
林 裕造 (著, 監修), 豊福 肇、畝山智香子 (翻訳);社団法人 日本食品衛生協会
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2.日本の食品安全委員会とEUの欧州食品安全機関(EFSA)はリスク評価機関である。
 正解:○

 第1問の解答欄に答えが書いてありましたね。
 これら2つの機関は、食品関連の行政機関(リスク管理機関)である厚生労働省、農林水産省、消費者庁から、EUであれば欧州委員会から、それぞれ独立した立場でリスク評価を行う機関として設置されています。つまり、専門家が集結して公正な科学的意見を出せる機関なのです。

 ただし、これら2つの機関はリスクコミュニケーションも行っていて、リスク評価の結果を、業界や消費者を含めた利害関係者へどのようにコミュニケーションしていくのかをも検討しています。
 第1問の解答で、リスクコミュニケーションを簡単に説明しましたが、リスクコミュニケーションは、リスク評価やリスク管理のいずれかの段階というわけではなく、すべての段階が対象です。たとえ同じ問題でも、立場が変われば問題のとらえ方も考え方も異なります。だからこそ、さまざまな立場の人が情報と意見を出し合い、より良い施策をともに考えるための話し合いをするリスクコミュニケーションが必要なのです。
 リスクコミュニケーションに参加する利害関係者には、リスク分析に直接携わる人達だけでなく、消費者、業界、研究者なども含まれると説明しましたが、当然ながらこのコラムを読んでくださっている読者の皆さんも利害関係者の1人です。食品安全委員会や各行政機関のサイトではパブリックコメントを募集していますし、各地で定期的に意見交換会も開催しています。利害関係者の1人として、皆さんもリスクコミュニケーションに参加してみませんか。
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3.ハザードとリスクは同じ意味である。

 正解:×
 一般的な“ハザード”と“リスク”の定義は何でしょうか。
“ハザード”とは、ヒトに影響を与える食品中の危害因子(化学物質や状態)そのもののことです。
 “リスク”とは、まず食品中にハザードが存在して、その食品を介したハザードの摂取量(暴露量)に応じて、どのくらいの確率で、どの程度の有害な影響が生じるかを示したものです。

 私の今までの経験ですと、“ハザード”と“リスク”の意味を区別できない方の多くは、“リスク”の意味は何となく分かっていても、“ハザード”の意味を“リスク”と同じだと思われているように感じます。

 第2回のコラムで、カフェインの摂取量についてお話ししましたね。この話を例にとって“ハザード”と“リスク”について考えてみましょう。

 このカフェインの話でいえば、“ハザード”がカフェインということになります。そして、カフェインが含まれている食品をどのくらい摂取したか(暴露量)で“リスク”が示されます。

 たとえば、カフェインが含まれている飲料を同じだけの量を摂取していても、含まれているカフェイン濃度が高いときのほうが身体の受ける影響は大きくなると考えられる、つまり“リスク”は高くなります。または、カフェイン濃度が同じ飲料を摂取していても、その摂取量が多いほうが“リスク”が高くなると推定できるわけです。
ですから、海外では、1本当たりのカフェイン濃度が高い“エネルギードリンク”や“エネルギーショット”は、カフェインの過剰摂取になる可能性があり、健康への影響が生じやすい、つまり“リスク”が高いと推定されるために注意が喚起されているわけです。

 この第3問を思いついたのは、“ハザード”と“リスク”の意味を理解することが、リスク分析を理解する上でとても重要だからです。

 その一方で、リスク分析を理解しようとする、またはリスク分析を行うときに、この2つの用語が最初の壁になっているようにも感じています。
 これら2つの用語、聞き慣れない英単語をカタカナ表記にしたために意味が通じにくいのかと思っていたのですが、どうやら日本だけの問題ではないようです。

 実は、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)が公表した報告書でも、“ハザード”と“リスク”は、しばしば同じ意味で使用され双方の違いが明確にされていない、利害関係者の立場によって理解や使い方が異なる、同じことを意味していても違う用語が使われることがある、と指摘されています。

 この報告書は、これら2つの用語がリスクコミュニケーションを成功させるための重要な鍵になるとの考えにもとづいて、利害関係者がこれら2つの用語をどのように理解し、使用しているかを調べたものです。その結果として、先述のような内容が指摘されたのです。このような調査が行われるということは、ドイツでも、“ハザード”と“リスク”の2つの用語の理解と使い方が、キーポイントであるととらえられていることがよくわかります。
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4.NOAELは、最小毒性量のことである。

 正解:×

 NOAELは無毒性量のことで、最小毒性量はLOAELと言います。
 NOAELは、No Observed Adverse Effect Level(無毒性量)の略称で、この量までは影響が生じないと推定される最大量のことです。一方、LOAELは、Lowest Observed Adverse Effect Level(最小毒性量)の略称で、影響が生じると推定される最小量のことです。

 これらの値は、動物試験の投与量にもとづいています。ハザード(危害因子)を用量段階的に動物へ投与して、影響が生じなかった最大投与量をNOAEL、影響が生じた最小投与量をLOAELとします。研究者によって動物試験で設定する投与量が変わりますので、同じ影響について複数のNOAELやLOAELが報告されていることがあります。リスク評価を行うときには、その中で最小の値を採用することが多いようです。

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5.食品フードチェーンとは、食品が生産場から販売店へ運ばれる流通段階のことである。

 正解:×

 フードチェーンとは、食品の第一次生産から流通段階を経て消費者が喫食するまでの一連の流れのことを指します。
 海外では、“Farm to Table”や“Farm to Fork”という言葉が、同様の意味合いで使われています。食品安全の分野で重要なのはフードチェーンアプローチという概念で、第一次生産から消費者が喫食するまでの各段階(生産、加工、保管、流通など)を通して安全性の管理を行い、リスクを低減しましょうというものです。

◆総合参考資料◆
食品関係用語集(厚生労働省ホームページより)http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/glossary.html#r-04

食品の安全性に関する用語集(第4版)(食品安全委員会ホームページより)http://www.fsc.go.jp/yougoshu.html

【お詫び】
編集部のミスにより、初回掲載時に問題2および3の正解に誤りがありました。
皆様には、謹んでお詫びを申し上げます。
現在は修正しております。

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